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▲「人生経験によって、物の見方あ変わってくる」と話す伊藤慶二さん

　壁面に縦二十センチ、横二十五センチの長方形で、黒などの陶製のオブジェが二十作品並ぶ。表面が滑らかなものもあれば、ざらざらしたものも。とげが埋め込まれた作品もある。近づくと「Ｈｉｒｏｓｈｉｍａ」「１９４５」などの文字が刻み込まれているのが見える。
　土着的な伝統に根ざしながら独創的な芸術を創造している芸術家を表彰する県の第四回円空賞に、県内からただ一人選ばれた。代表作が、三十年ほど前から作り続けている「Ｈｉｒｏｓｈｉｍａ−土」（１９７５−２００５年）。

　「風化していくものを形として残していきたい」と力を込める。二十枚の陶板から、広島の焦土と、人の苦悩が伝わってくるようだ。

　第二次世界大戦の終戦を疎開先の土岐市で迎える。十歳のころだ。子ども心に「新型爆弾を落とされて負けた」ことが強く印象づけられた。二十歳のころ、広島を訪ね、原爆の写真や遺物を目にしたが「もっと強くアピールできるものがあるのではないか」との思いを強くする。

　三十歳のころからシリーズが始まる。作品は、土の成分や焼成温度を変えながら、同じ一つの型から作り続けている。アフリカの日干しれんがを作る技法と同じで、木枠に土を入れて、天日干しにして成形する。黒っぽい色が多いが「実際の色以上に、見る人によっていろいろな色を感じさせる」と話す。

　武蔵野美大で油絵を学んだ後、県陶磁器試験場（多治見市）に入り、陶磁器デザイナーの日根野作三氏に師事。「現在の生活の中で生きる器づくり」の必要性を実感した。三十歳を過ぎて独立し、創作活動に入った。「器を作ることによって、焼き物の技術を身に付けることができた」と考えたからだ。

　以後、「沈黙」「足」「触」「尺度」など、哲学的なデザインでメッセージが込められたオブジェ作品を中心に活動。世界クラフト会議日本クラフトコンペ（一九七八年）、ファエンツァ国際陶芸展（八一年）などで賞に輝く。「王の祈り」が美濃陶芸作品永年保存として県陶磁器資料館に展示されているほか、ファエンツァ陶磁器博物館など多くの美術館などに収蔵されている。

　素直な気持ちで物と接することを忘れず、自らを「陶工」と呼び、器を通じて社会に提案を続けている。「六十歳を過ぎてから、茶わんが分かってきた」といい「人生経験とともに、物の見え方が分かってくる」と語る。土の素材に恵まれた美濃の地を愛し、創造力は尽きることがないようだ。（妹尾浩和）

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　円空大賞展は、二十五日まで、岐阜市宇佐、県美術館で開かれている。