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▲五代西浦圓治

▲西浦焼の代表作の「釉下彩紫陽花図花瓶」

釉下彩　世界を魅了
　近代陶磁−一般に明治から第二次世界大戦前に作られた陶磁器のことをいうが、その背後には世界を舞台とした壮大なドラマが見え隠れしている。プロローグを飾ったのは、幕末から明治初期に海外で開催されていた、万国博覧会への出品を通じて好評を博したことだった。そして、我が国を代表する輸出品へ台頭するとともに、こうした陶磁器などによって欧米では、ジャポニスムといわれる日本美術ブームが沸き起こったのである。
　近代の美濃焼はさまざまな技術革新をはかって量産体制を整え、国内最大の産地に成長した。

　このなかで一頭地を抜き、明治期を通じて世界の人々を魅了したのが「西浦焼」であった。三代から五代西浦圓治のもと、多治見を中心に生み出されたこのやきものは、はじめ染付や上絵付を主力としていたが、明治三十年代初頭を隔てて大きな変化を見せる。それは釉（ゆう）下彩という、磁器を覆う透明釉の下にカラフルな色を使って描くもので、当時の新しい技法だった。

　ちょうどこのころ、欧米ではジャポニスムなどが昇華して誕生したアール・ヌーヴォーというスタイルが広まっていた。流れるような曲線によるデザインを特徴としており、日本の陶磁器にも少なからぬ影響を与えた。結果的に芸術様式の潮流が、洋の東西を一巡りしたことになる。

　西浦焼もこの華麗な表現と釉下彩の競演によって、艶やかな作品が作られることとなった。写真の釉下彩紫陽花図花瓶（県陶磁資料館蔵）は、深い緑をベースとして青やピンクで花びらを描いている。柔らかな質感をだすために、釉薬を霧状にして吹き付ける技法が使われており、流線的なフォルムと相まってひときわ美しい。

　明治三十七年のセントルイス万博、同三十八年のリエージュ万博で金賞を受けるなど、特に明治後期の功績は枚挙にいとまがない。五代圓治は「まれにみる人格者だ」といわれたほどであり、陶磁器関連の役職のほかにも、第四十六国立銀行支配人や多治見町長などの要職にも就いていた。まぎれもなく多治見から美濃焼を世界的レベルに高めた人物であった。

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　万国博覧会にも出品し、海外でも人気を博した明治から戦前の近代陶磁の担い手とその技について、月一回紹介します。執筆者は、近代国際陶磁研究会員で多治見市商工観光課の立花昭さんです。