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▲「どれも製品化に難儀したものばかり」と当時を懐かしむ伊藤さん＝瑞浪市陶磁資料館で

　美濃焼業界の老舗陶磁器メーカー「山五陶業」（瑞浪市陶町猿爪）が、創業の一八七二（明治五）年からの歩みを閉じて四年余。ディナーセットは北米を中心に輸出され、世界的にも知られた名門企業だった。同市明世町山野内の市陶磁資料館で開かれている「西洋陶磁への憧憬（しょうけい）−山五陶業の遺（のこ）したもの−」展を、元役員の伊藤賢一さん（９１）＝同市陶町猿爪＝から説明を受けながら鑑賞した。（清水祐樹）
　展示は、まきを燃料にした登り窯で焼いた初期の製品から始まる。印象的な竹絵や鳳凰（ほうおう）唐草の皿などは時代を感じさせない出来栄えだ。明治時代の終わりから大正時代にかけては、四十人ほどの職人がおり、青磁の貿易品や白磁の大型物を焼いたという。

　一九三二（昭和七）年に石炭窯を設置。米国での売り上げが落ちてきたため、重量に応じて関税がかかるブラジルへの輸出を進めようと、三四年から軽量の半磁器製品を開拓した。会場には芥子（けし）画の半磁器食器などとともに当時、手本とした欧州の高級食器も並ぶ。

　第二次世界大戦中、金属供出で取られた仏具や神具の代用品や工場用食器、国民食器もそのままの姿で残っており、戦時中の苦労を伝えている。

　戦後すぐは「作れば売れる時代」（伊藤さん）。それでも「悪い製品は一つもない」と青木本吉館長も驚く品質の高さを保ち続けた。連合国軍総司令部（ＧＨＱ）の指導により全輸出品に裏印が義務づけられた「オキュパイド・ジャパン」のマークが付いたディナープレートは、現在の目で見ても優れた完成度を誇る。

　五〇年代半ばから、輸出陶磁器業者が一斉に対米貿易に乗り出し、白素地の需要は急騰。トンネル窯を増設し、社員三百人体制を敷いて対応した。一流メーカーの証しといわれるディナー五品目をはじめ、全品種の自社生産を一貫して行ったこだわりが、さらに技術力を磨き、ディナーウェアーメーカーとして確固たる地位を築いた。「ピンク色を出すのが難しかった」と伊藤さんが目を細める薔薇（ばら）絵のディナーセットは今もまぶしい輝きを放っている。

　その後、銅版染め付けシリーズを原動力にドルショック、オイルショックにも耐え抜き、より白色が鮮やかな白磁食器や二重鋳込みの容器なども開発。しかし、安価な海外製品とのコスト競争の前に次第に経営が苦しくなり、二〇〇三年の閉業に至った。

　伊藤さんは「どれも難儀した製品ばかり」と約五十年間勤めた会社の往時をしのび、「職人の技術が失われつつある」現状を憂えた。青木館長は「今展示は、瑞浪の焼き物の歴史であり、近代窯業の歴史でもある。ぜひ見に来てほしい」と話している。

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　同展は八月五日まで、約二百五十点を展示。問い合わせは、同資料館＝電０５７２（６７）２５０６＝へ。